「な」の暇潰し定義達

呪い・・・"願い"が、不特定な他人の犠牲によって達成されるのに対し、特定の個人の犠牲を強いることにより達成される"願い"の類

人間・・・一般認識「女の腐ったような奴」及び「オスのような女」(注)個体を取り巻く家族・環境等の要因が作用する為であるが、以前経験した性が何らかの結びつきを保ちながら、断片の潜在的記憶として現在に影響を及ぼす事もその要因の一つである。「男らしく・女らしく」という一般的な美意識に振り回されず、「人間らしく」を欲する様

2000年問題・・・官僚・政治家・資産家・企業の管理職を自覚せし者は、スピードの出る、空を飛ぶ公共機関を利用せよ。それが「体質改善」への手っ取り早く、痛みの少ない確実な方法である。後は貴方達以外が立て直す。心配は要らない(正確には"心配するまでもなく・・・")

ノルマ・・・家庭及び家族サービス→(普段は家庭に拘束されている)商品達の管理・保全(御機嫌取り)業務であり、主に「家事仕事の分業・外出の提案」等の形を取るもの

二階級特進思考・・・小学生→「憧れの高校生になる為に中学へ通う」中学生→「大学以降へ進路に対する意思決定を持ち越す目的で取り敢えず高校へ進学する」高校生→「出来れば社会人にはなりたくないが、せめてもの間大学で遊びまくる為の情報を押さえておく」大学生→「よりよい老後を迎える為の備蓄を増やすに妥当と思われる仕事への就業条件を強化する」社会人→「死ぬ迄の隙間を埋める」

〜型、例えば、タバコ型・・・日々の暮らしをサポートする様々な電子機器類は、その発展段階に応じて古くからある既存の雛形にその機能を上乗せする(組み込む)事が一つの技術革新であると頑なに信じられている。つまり、呼称により予め限定されている商品観念に、より優れた電子機能を搭載させ、見た目では「それ」と分からなくする事が、一つの"理想・美徳"となるのだ。大体が「装着できるもの」であることが多く、"腕時計型"、"ボールペン型"、"タイピン・カフス型"、"指輪型"とエスカレートする。上乗せする電子機器も「液晶・デジタル・通信」云々、益々手の込んだ芸当を披露する。まあ、早い話が「これで貴方も、気分は"秘密工作員"」という按配か。お茶目

忍耐・・・初期のモチベーションがとっくに還元されているにも関わらず、他の注目に値しないという誤った判断が増殖する事で、純粋に対応しようとする個体の回避機能を自我が押さえ込もうとする様。「このままでは何の評価もされない」と言う強迫観念に駆られることで時には個体の機能維持活動に支障を来たすも、ちょっとしたはずみがきっかけとなり、支障そのものが快感へと昇華する場合がある。その達成に際し他の賞賛と共に「もっと・・・したかった・まだ大丈夫だった」というのぼせ上がりをも生み出す

なかなかマネできない・・・「他に楽しい出来事が山ほど転がっている(その手の情報で巷は溢れ返っている)現在ではそんなにまでして一つの事に心血を注ぐのはバカらしい、勿体ない、時間の無駄、ロクでもない」と思わせるだけの立派な、最早それなしでは"生きる意味"すら見あたらない、と思い込んでいる哀れな状況に浸りきっている「ろくでなし」に同情して使用される"建前"慣用句。「そんな事は頼まれても、金を積まれてもご免蒙る」というのが真意

なんくせ・・・鑑定人が知識と経験を元手に買い取り価格を最小限に抑える目的で"もっともらしい"愚痴をこぼし、「この値段じゃなければ誰も買いませんよ」という捨てぜりふを効果的にするマイナス査定要因を所有者に突き付ける様。しょぼくれる所有者に「他に持っていっても同じ事を言われると思いますよ」「他を回る時間を考えたら妥当だと思いますよ」というトドメを刺し、売買成立後は"どのルートを使って捌けば上手く転がせるか"と算用しているのがこの手合い。こうやってこの手合いは今や"メディア"に担ぎ出されて左団扇の生活を送っているのだ。従って、この能力がない"正直者"には不向きな作為である。通称「公認詐欺師」

熱中・・・観測者を基軸とした場合、ある魅力的な事象に対する被観測者の主観的運動エネルギー質量が増加すると共に精神系が光速で惹き付けられ始める為に、観測者と被観測者の間に時間のズレが生じる、というもの。一般相対性理論の実践。「アッという間だったよ」という素朴な感想の正体であり、結論として"観測者よりも時間的喪失が認められる"状態を指す

慰め・・・貴方が受けた(外傷又は心因性の)傷口を「悲痛な」表情で眺めているだけの、"そうするだけしか脳がないのなら構わないで欲しい、とっとと消え失せて欲しい"輩が口にする「その気の毒な様を共有して、あわよくば痛みを和らげてやる事で恩を売っておこうとする"慈善事業"と呼ばれる魂胆」

見た目・・・幾ら身体を鍛えているからといって、全部が全部「カラテファイター」であるとは限らない、という事

内密・・・共犯者に仕立て上げる為に配布されるチケットのような

何様・・・初対面、若しくはさほど親しくない他人が貴方の領有地の片隅に設えたデリケートな花園を土足で踏み荒らす無神経さを発揮する事で、顎と拳の筋肉収縮及び眉間の縦皺、こめかみの血流量増加と共に喉元から射出、一抱えほどある罵倒の冠に宛てられる

〜よりはまし・・・逼迫した状況下で、何一つ好転のきっかけが掴めず、あまつさえそこより抜け出せる兆しの微塵もない状態に於いて、究極的な自慰手段として用いられる"民間療法"の一種。時としてその対象が、発展途上国の難民や原住民や小動物に向けられたりもする。その浅ましさの自覚がない場合に最も効力がある

良くない・・・"悪い"と断定するだけの根拠に乏しく、さりとておざなりな反応を見せると相手を図に乗せ、最悪の場合、相手の趣味性の部分に付き合ってしまう危険性を密かに察知して放り投げる「牽制球」

憎しみ・・・"二度と手に入らない・入手に対して再び同質のエネルギーを拠出する自信がない"と強く思い込んでいた「依存対象物」が、外的要因により楽な場所へと移動され、その要因に対して発生する"(空虚感をもたらした、と言う意味で)許されざる思念"に依存転換し、その後の人生の目標を絞り込む事。これでしばらくは張りのある人生が保てる(要因に対して何らかの措置が完了するまで→通常"復讐"と呼ばれ、移動した対象物の情念で動かされているかの如き錯覚を引き起こす)。注意しなければいけないのが、これらの"思念依存"が、あたかも「正義」に帰属する上に成り立っている行為であるような幻覚を認識させる点である。大抵は周囲に(愚痴聞きに始まり、魅力的な趣味を提供してくれる、献身的な)理解者不在の場合に起こりやすい

なくす、失う・・・持ち物が最適な場所へと移動、若しくは楽な姿勢をとる

何が悪い!・・・究極の結論として導き出される人間の行為における主観的道理。追求側が逃げ道を全て塞ぐ事で発生。この後に「お前が俺だったら」「周りも同じ様なことをやっている」「お前も同じ穴のムジナだ」と続く。俗に"長生きする秘訣"であり、追い込まれた際の"逆ギレ"となる要素

何気なく・・・率直な寸評は時に他人の立場を著しく侵害する恐れがある。何故なら"心に浮かんだ印象をそのまま言葉にする"という行為が「(自分が言われた場合を想定して)他人を思いやる」心構えのつかない段階で"場当たり的な勢い"として発せられる事が多いからだ。確かにそこには、(一般的に、嫌な奴だと思われたくないという見解から)誰も指摘したがらない事実がかいま見れる場合もあるが、大方の人間はそれよりも"言われた側の立場"に同情するものである。そうすると、その指摘よりも、指摘側の人格非難へと論点が移行する恐れがあるのだ。従って、そのリスクを軽減させる為にこの加工技術を用いる(剥き出しの事実に服を着させる)事で日常の人間関係は破綻を免れるのだ

内緒の・・・複数の被験者に施した臨床試験により成功率の高い事が確実な「他人を早く馴染ませる・他人に早く取り入る為に大した事のない話題を持ち出し、あたかもそれが"重要な"意味を内包しているように思い込ませる」効能を持つ即効性の錠剤(注)その錠剤を服用した別の個体と新規被験者が邂逅、服用の圧迫感を(相互に"押しつけがましさ"を)共有・検証し始める事で服用に対する信憑性を疑い始め、使用側の人間性を疑う、という副作用アリ

偽物・・・(カラーコピー・シリコン・欠損)品×市場流通=書類送検

見てられない・・・立場や職域を利用して新しいものに手を出している姿が熱気を帯びていればいるほど、感動を誘えば誘うほど受け手側に"諄さ"が「痛み」として伝わる様

熱弁・・・「早く理解して欲しい」という目論見・意気込みが相手に「見抜かれないで欲しい」と伝わってしまう様子

能書き・・・結果として実を結ぶ事のない(正確には、一歩を踏み出す事の出来ない)筋肉や学力の雄弁さ。往々にして権威がない事の(競技会で実績を残す・学位を取る等の)反動から「説得力のない蘊蓄」程度と解釈される。"趣味"と"実益"の間に横たわる敷居に躓いて

無駄・・・賞味期限の過ぎた「便利・重宝」。周りの人間が同じ「便利・重宝」を享受すると、たとえそれが便利であっても個体は物足りなさを感じてしまう。その為に更なる他人の持っていない「便利・重宝」を追い求める欲求が発生し、結果として経済機構を潤すが、そもそもその行為自体が"無駄"であると悟る事により、周囲から"ダメ人間"呼ばわりされる事も

納得させる・・・会話スピードを速める事で相手の理解力を混乱させ、意見を口にする隙を与えずに結論までを一気にまくし立て、うなり声を挙げて困惑する相手を置き去りにして即座に話題を切り替える力技。"有無を言わせず"

納得する・・・"他にやりたい事が控えているので、とりあえずこれ以上関わりたくは・・・"という逃げの心境から

年金・・・貴方を懸命に、賢明に育て、その為に自分の時間を犠牲にしてきた老人より、貴方が手際よくむしり取って貴方と貴方の所有物に宛う公的流用資金の一種。1.閉所に一定時間集団で隔離する 2.危機感を煽る 3.魅力的なエサを蒔く 4.他人を引き合いに出す 5.有名人を手なずける 6.利便性を強調して代用品を宛い、足腰を弱らせる 等の要素を巧みに利用する事で搾取を容易にする

人間として・・・一般的には"理性を介しない"衝動性に起因した行為の顛末に対してその道義的責任を当人に自覚させる際に説得的意見の導入部に用いられるもの

悩み・・・湧いた時点から脳味噌の隔壁にこびり付いて生体サイクルに多大な影響を与える寄生虫の一種。実に多くの人間の体内に寄生、個体のライフサイクルでの極めてつまらない考え事が、次第に習慣化して生活の一部として存在価値を上げる為に起因すると思われる。外因だけでなく、借り物である個体の容姿などもその要因となりうる。その焦点は現在及び目先の未来。大概さんざん悩んで答えが出た挙げ句に、認識豊かな人物に相談に行き、相手に「そうだね・そう思う」と言わしめて束の間の安堵感を得る(参照→意見)。その際悩みをうち明ける相手は当人にとってどうでもいい当たり障りのない人物を選定するのがネックとなる。同性であればさして問題にならないが、異性の場合、相手に何か別の感情を引き起こす要因となりうる危険性を伴うが、すかさず次の機会にありもしない恋の話を相談すれば相手の出鼻を完膚無きまでに叩き潰すことも可能である。その際見分ける判断材料として1.あらぬ方向を見ている 2.「あー・えー・んー」と、導入部に感情補正用の接頭語を付ける 3.明らかに"腑抜け"になっている などが挙げられる

〜のせい・・・"貴方の不満は貴方の存在責任に依るところが大きい・貴方が蒙った災難は、そこに貴方がいたという事にも分がある"と口にする事が忌避されるこの社会での救済措置として貴方以外への転嫁が義務付けられているもの。貴方がその帰結場所として不幸にも「自分のせい」とした場合、周囲はそんな貴方に救いの「泥船」を貸し出してくれるはずだ

値頃感・・・十円よりも百円が、百円よりも千円がより多く"思い込み"を発生させる余地が残されていると思われているもの。商品価値としての立場(金額の多寡)の差違が反映されるが、その際比率は含まれない(一万円の商品を三千円で購入すれば大変"値頃感"がある、と思わせる事ができるが、同比率で一億円の商品を三千万円とされた場合「絶対に何かある、不良品かも知れない」という思い込みを発生させ、当初の思惑を逸脱する)

貧乏・・・環境の純化作用に適応できず、精神が過去への退行を試みた末に、却って明瞭な比較対象を得て帰還する事で発生、現状を益々悲観させる作用を持つ

波紋・・・貴方の呼吸がエルニーニョ現象、若しくはオゾン・ホールの拡大に及ぼす影響、若しくはその他諸々の現象への効き目

二面性・・・「ええい、もう止めた!」そう言うのは簡単である。少なくても今の貴方の内面には、葛藤する自分自身がある。その葛藤は「やるべきか、やらざるべきか」の二極間を揺れ動いている。つまり「やる自分」と「止める自分」の背反するそれぞれの意志と、実存状況とを秤に掛け、そのどちらかの囁きに身を委ねる。それはもう一人の自分?もしかして分裂症? いえいえ、貴方が考えているそれは、意識下の「自分」から分離した"テクスト"である。それは、「もう一人の自分」ではなく"単なる都合の良い逃げ道"の類だ。「後悔と徒労」を引き入れる以外は大した意味を持たない。一緒に前へ転がっていけばいい。だが、貴方の本質に宿るもう一つの自分は、そうして貴方が訳もなく(貴方自身は"訳アリ"と思っているのだろうが)、藻掻き、苦しんでいる間も、ただ黙って、貴方の無意識下で、貴方の現実性での移ろいをただただ「眺めて」いる。「三人目の友人」として貴方が肉を纏った瞬間から、貴方に知覚され難いポジション(位置・形質)を保ちながら、常に貴方の「転がり」の轍を浚っているのである。「朝起きて、夜寝る」までのルーティン・ワークに於いて、そいつは常に貴方のやることなすことを、無関心・無感動に眺めているのだ。
「一体何の為にいるのだ?」知覚的・感覚的刺激と記憶回路によって自覚されている"仮の貴方"は問いかける。
「何の助けにもならないのならとっとと失せろ!忌々しい!」"仮の貴方"は癪でしょうがない。それもそうだ。得体の知れない奴に貴方の振る舞いを覗かれているんだから。ちょうど、隠しカメラでプライベートを晒されてしまった心境に近いものがある
「出てこい!一つ、話し合おうじゃあないか。何を望んでいるんだ?何の為に俺を監視しているんだ?」暫くすると、色彩や、振動とも取れる超感覚的な信号がここかしこから放たれているのに気付く。"仮の貴方"はその情報を拾い上げる為に、信号が流れている部分をのぞき込んでみる。
『やあ、案外早かったですね。もうちょっと時間の掛かるものと思っていたが・・・』ぐっちゃぐっちゃの信号が入り交じり、やがて幾らか規則性を持ったかと思うと、貴方と同じ格好をしたもう一人の貴方が突然現れた
『こんにちは、"仮の貴方"さん。私が"本質的自己"です』いやいやたまげた!貴方にそっくりなのは見て分かるが、言うに事欠いて"貴方の本質"を名乗っている。貴方は半ば激昂しながら、その"本質的自己"とやらに食ってかかる
「おい、俺に似ているお前!ここで何していやがる!俺はお前に"俺の子守"なんか頼んだ覚えはねェ!何の権利があってお前は"俺"を名乗っていやがるんだ!」
『まあまあ落ち着いて、自分に噛み付いても何も始まりませんよ』
「言ってる事が分からねェな。お前、俺をはめようとしてんだろう、ははあ、さては"死神"の類か?残念だが俺はまだまだやり残した事があるし、躰もピンピンしてんだ。それにまだまだ人間がやりてェからな。そう言う訳で、分かったらとっとと失せな!」
『あのー、誠に遺憾ですが、私はその"死神"と呼ばれているものではありません。時間短縮の為に予め言っておきますが、貴方の概念にある、凡そ"神"と名の付く類のものではありません。最初に言った通り、私は貴方の"本質的自己"です。それ以外何物でもありません』
「それじゃあ何か?俺は分裂症とか、心身症か何かで、俺自身の中にいる、もう一人の俺の幻影と話しているとでも言うのか?」
『いいえ、それも違います。貴方はれっきとした"仮の貴方"ですし、私はれっきとした"本質的自己"ですし・・・』
「ちょっと待て、さっきから聞いてると"仮の貴方"って言うのはどう言う事だ?俺は俺自身で、俺の肉体は俺自身で、それ以外何でもないぞ!」
『言いたい事はよく分かります。だけれども、そこでよく考えて下さい。貴方が"そこ"に存在するという事実を・・・』
「そんなこと知る訳ねェだろうが!考える余地ないだろうが!バカかお前?」
『やれやれ・・・いいですか、気を悪くしないで聞いて下さい。貴方は数十年、貴方の感ずるところの現実に、貴方と思っている肉体をまとい、その意識と思考を駆使し"物理界"と呼ばれる、不安定な形質の循環する領域でその肉体を操業させています。それが、貴方の肉体を司る集合意識としてであるか、それとも霊的な意識であるか、とかはこの際問題ではありません。その概念を持ち出すのはややこしいですからね。それらは貴方が物理界に落ちてから、せっせと貯め込んだ"記憶"と、感覚的知覚による産物が、とりもなおさず、貴方自身が現実レベルでの操業を続けている事の証です。操業を停止させない事への証です。つまり、貴方は"後天的に"発生した貴方自身という事です。肉体の成長と共に発達し、やがては消失する貴方自身、と言う事です。その"実存進行プロセス"を感知している間、貴方が貴方でいられると言う訳です』
「お前、俺を脅しているのか?ビビらせようってハラか?」
『そうではありません。ただ、貴方は何れ、貴方自身である"私"へと還元されるのです。つまり"仮の貴方"は、何れ返却されると言う事です。貴方に分かりやすく説明すると・・・』"本質的自己"は、両端におもりの付いた白いゴムひものようなものを取り出した。
「何だそりゃ。随分と手際がいいな」
『この手の説明はウンザリするぐらいやっていますからね。最もその自覚は・・・まあ、それはさておき、このひもの先端に付いた二つのおもりは繋がっています』
「繋がっているが、同一ではないだろう」
『同じ環境・条件下ではこのひもと二つのおもりは同一です。形質も同一、何もかも同一です』
「だが、少なくとも俺とお前の関係を見ると、同一とは言い難いが」
『それは環境と条件が異なるからです。貴方をこちらのおもりに喩えましょう』
「そっちのおもりにした意味はあるのか?」
『別にありません、なんなら、もう一つのおもりを貴方にしましょうか?』
「いや、いい、続けてくれ」
『今、貴方の意識は"現象外世界"にいます。同時に"現象世界"に肉体を保有している。その条件から貴方は現在"物理レベル"に落ち込んでいます』
「"落ち込んでいる"とは聞こえが悪いな。何か悪いことでもして"物理レベルに"隔離されているような言われ方だ」
『いえ、別に意味はありません。それは多分、貴方の概念で言う"優れている・劣っている"という範疇で認識されているのだと思いますが、この場合の"落ち込んでいる"と言うのは、そうですね・・・"熱中されている"とでも言いましょうか』
「つまり、俺は物理界に存在する事に"熱中している"と言う事か」
『まあそんなところです。それで、貴方が物理界に落ち込み、肉体を纏って顕在化したとします』
「片一方のおもりが伸び始めたな」
『そうです。貴方は物理界で、様々な事象に直面し、様々な知覚情報を習得し、体内に様々な対処システムを構築します。丁度コンピュータプログラムに、キーボードから動作命令が打ち込まれるようなものです。そうこうしている内に、貴方は貴方自身として存在しているかのような、いわゆる個別化作用が、その肉体内部に構築され始めます。貴方は貴方自身であり、他の誰とも違い、この現象世界で唯一の存在として独立しているかのような錯覚を覚え始めます』
「何だよ、それじゃあまるで、俺自身が"幻"のような言われ方だな」
『皮肉な話ですが、その"幻"という概念は少なからず的を得ています。何故なら、貴方は"本質的自己"である私から遠ざかる事によって尚一層知覚され始めるからです。強いて言えば"蜃気楼"のようなものですね。大分ゴムひもが伸びているでしょ?』
「随分と伸びたな。俺は丁度こんな感じでいるのか?」
『そうです。しかし残念な事に、物理界にある、貴方の認識しているゴムひもと一緒で、このゴムひもも、やがて"伸び"の臨界点がやってきます』
「ちぎれる寸前、って言うところか」
『物理界ではそうなるでしょうが、ここのゴムひもは残念ながらちぎれません。ちぎれないという事は、今貴方の密かな望みとして浮かんでいる"完全なる個"として、貴方がこの先も永遠に存在するであろうとする為の恣意活動は何ら効果を顕わさず、あまつさえその思考自体も含めて、何れ水泡に帰するでしょう』
「お前はむかつく奴だな。もうちょっと言い方ってもんがあるだろう」
『どう言ってしまっても、真実は変わりません。気を悪くなさったら謝りますが、それすら全て・・・』
「ああ分かった!取り敢えず伸びきったゴムひもの話に戻ってくれ!」
『ゴムひもの伸び率が限界に達すると、後は収縮が始まります。これは個体差、つまり、借り入れた肉体の仕様毎によって様々です。放たれた矢のようなスピードで戻るのもあれば、伸びたときのスピードで戻っていくのもあります。一概にどれが基準かというのはありません。何れは必ず、初期の値に戻るという事です。例外と言うのは存在しません』
「その収縮が様々であるのはどうしてなんだ?」
『肉体の維持活動が、何らかの外的要因によっていきなり終焉を迎える、という場合があるでしょう。つまり、突発的な災難で肉体から分離される場合です。これは勿論何の構えも整っていませんから、ショック状態に近い感覚でゴムひもは戻り、肉体に付随していた意識は物理レベルの深層領域、根元的な欲望へと突き落とされます。貴方達の思念、つまり、肉体時の様々な"達成されなかった欲望"がエネルギーを帯び、磁界を発生させながら、物理界に留まろうとします。その際に生じるのが"還元をもたらす肉体の消失"によって昇華される見込みのない思念エネルギーの固着化現象です。これが俗に、肉体を有する貴方達の目には"幽霊"等の現象で親しまれるものです』
「その"幽霊"と呼ばれる連中は、俺達と同類なのか?」
『そうであるものもいれば、そうでないものもいます。一概に全てが同類であるとは言えません。置かれていた環境からの情報摂取量によっても差が出ます。より多くの情報が多くの楽しみとして知覚される地域と、最低限度の生存情報のみの地域とでは、個体の欲望計数も変わってきますからね。まあ、強いて言えば"貴方達の延長線上の何処か"に存在している、と言えるかもしれません。つまり、"非物質的形状"という見地からは、同じ区分が出来ると言えます。ただこの場合、意志や方向性は実に多様です。大別すると「存在の意志として物理界に留まるもの」と「何故そこにいるのかも分からないもの」とに分かれます。ただただ物理界に漂うだけのものもいれば、肉体を保有していた時と同じ操業を性懲りもなく続けるが、実質を伴わない為に操業自体が昇華する見込みのない"空回り状態"のもの、肉体を保有する連中の気を惹こうと懸命になるもの、ドロドロとした欲望や怨恨等の念として特定の磁場を形成し固着するもの、その反面、確固とした意志を持ち、物理界に影響をもたらす思念も存在します。彼等の多くは、肉体還元時に「やり残した事」「やるべき事」「やり足らない事」「やらなければならない事」を"物理界"に"置き去りにしてしまう"という思い込み・強迫観念が、存在としての浄化の過程を蔑ろにする傾向から、その反動で物理界に留まろうとします。対して、肉体の細胞代謝活動が臨界に達し、ゆっくりと組織が停止し、全体操業を停止させる場合などがあります。この場合、ゴムひもはゆっくりと元の状態に戻ります。そして、何れは物理レベルから離脱します。早いか遅いかではなく、いつかは必ず訪れるのです』
「その手順には、何か特別な・・・何というか・・・俺達の概念で言う、"悟り"とかなんとか・・・それによって、早まったりとかするのか」
『それは物理界に於ける方法論の一つであって、正しいとか、間違っているとか、優れているとかいないとか、という比較対象関係にありません。その自覚の有無もまた、大した意味を持ちません。元々それらは、情報として取り込まれるパターンが多いので、こちら側からは"余計な体脂肪が付く"程度であると言えます。ただ、何れ誰もが通る道である、とは言えます。その情報を取り込むか取り込まないかは別として』
「じゃあ、いずれ俺も、悟りを開いて神や仏と・・・」
『予め言っておきますが、それらの"人間的"な能動負荷作用は、貴方への"趣味の一環"を提供する事以外、何ら重要性を持ちません。それに払われる努力も、それに依存する度合も、それが導く辺鄙な場所も、それが住んでいるかも知れない、いわゆる"楽園"の様なものも、それが懲罰として管理している"地獄"の様な場所も、一切合切含めて私に還元されます。元々それらは、多くの思念が願望として確保されている居場所を提供してくれる、結実された"幻想"の類ですから、無関係である者にはトコトンまで無関係です。興味のない者には"紙芝居"程度の価値しかありません。実際それらは"紙芝居"と同程度の利用価値しかありませんけど。それと、貴方は少なくても彼等の方が早く私に還元されると考えているのでしょうが、実際は違います。それは自覚レベルの問題です。自覚レベルとは即ち、貴方のような方が"物理レベル"での操業に"飽きる"度合の事です。楽しいと感じている内はそこに留まり、その操業自体に何ら興味が湧かなくなるまで、延々と続けられます。それらは欲望と言う形で顕現化し、やがては信仰→自己犠牲→個からの脱却、という昇華を繰り返し、最後にはそれら自体に興味が失せるまで続けられます』
「と言う事は、長くこの世界で操業しているからと言って、早くお前の所に戻っていく訳ではないんだな」
『その通りです。一回で飽きれば、それで戻ってきますし、膨大な回数続けていても、一向に飽きる気配がなければ、延々とそこに留まる、という訳です。物理界には、貴方の操業を進んで続けさせる為の情報がわんさかあります。それはとりもなおさず、貴方を飽きさせない為です。物理界での貴方が、朝目が覚めて、夜寝る迄の極めて退屈で億劫な日常の繰り返しを、意識的に止めさせない(自殺しない)ようにしているのです。知覚されている苦痛と恐怖が、(知識として保有している)"操業停止時の苦痛と恐怖"よりも常に下回るような仕組みである事も要因の一つと考えられます。だが一方には、確実に飽きている連中も存在します。彼等は、努めて貴方の気を引こうとはしません。彼等は何となくこの操業を理解しているからです。この操業の無意味さとバカさ加減に気付いているからです。それらの要素を口で感化させてみようとしたところで、操業が楽しいと感じている者に対しては無駄であることをよく知っているのです。又、そのような負荷が、結局全て無意味であることもよく分かっています。逆に、操業を続けさせようとする連中もいます。これは、意識レベルでの楽しみを様々に喚起し、持続させるという方法を多用します。貴方の概念で言う"愛"とか"幸せ"と定義されるものへの憧憬がそれに当たります。これの永遠性をくどくどと説き、獲得する手段を提示し、操業に対する持続性を強めるのです。加えて"達成感"という、実に厄介な感性が貴方達には備わっているので、実に多様で数多くの操業が楽しめるわけです。何せ、貴方達は極めて飽きっぽい種族ですからね。これらがあるお陰で、多くの"ゴムひもの片割れ"は、喜んで物理レベルに落ち込むわけです。最初はちょっとした興味からですが・・・そうして、"個"のもたらす感覚的な愉しみに慣れてしまったゴムひもの片割れは、知覚出来うる限り、その現実にすがろうと努力するわけです』
「ちょっと待ってくれ、話の腰を折るようだが、物理界にいる連中っていうのは、全てお前の"片割れ"と言うことか?」
『そうです。勿論、貴方のような肉体形質を持つ、いわゆる動物以外もです。例えば"木"、"水"、"火"、"土"・・・に至る、純粋意識や、集合意識もそうです』
「・・・・・・一体、数にするとどの位の"片割れ"が物理界にいるんだ?」
『数は問題ではありません。枝葉のように分離していますから。それに、いちいち出荷数をカウントしているわけではないので、いるだけいる、という感じですね。えっと、それと、貴方が先ほどから疑問に思っている、"管理"の話なんですが・・・』
「そうだ!少なくてもお前は"俺専用"の管理人ではないわけだな。俺のようなタイプをまとめて管理しているという訳か?」
『貴方の世界で観念化されている、例えば"組織"と呼ばれる集合体のイメージを用いて説明しましょう。分かりやすく"会社"と呼ばれている体系に当てはめると、貴方はその組織の最下層で、自分の趣味と人生観を会社と賞与の基盤上に形成し、その相互干渉が、貴方の肉体が消失するまでの大部分を掌握しながら、日常に何らかのテンションを見つけ生きているわけです。それはあくまでも肉体レベルの話ですが。現象外世界での貴方の上司には、いわゆる高位な次元に位置する、と一般的に考えられている、平たく言うと「神」と定義されている、肉体自我による楽しみを放棄した(飽きてしまった)連中がいます。いわば、貴方に"ちょっとばかり高尚な→単純化・純粋化を促進する"情報を提供する連中です。彼等は基本的に、貴方のような物理界に落ち込んだ連中を作為的に引き上げる事で、会社から恩給を賜ります。因みに"恩給"と言うのは"より上位の存在に移行する為の営業成績"のようなものです。つまり、自らの存在意義を、自分以外の者に振り分ける事で達成される類のものです。自己犠牲の精神とでも申しましょうか。まあ実際は、より"楽な"存在へと移行するだけなのですが。彼等は"高位自我"と呼ばれ、貴方達のような肉体に付随する自我のレベルアップを職務としています。いわゆる"技術指導員"というようなものです。彼等の上司が、更に純粋化された自我で、貴方が高位自我との邂逅を果たし、然るべき情報を供与するプロセスを監視し、その状況に応じて高位自我に司令を送ります。彼等は"純粋自我"と呼ばれ、潜在領域下の大部分を掌握している、とされています。宇宙の運行から原子の挙動に至る、様々な規範を設定し、それらが全て自律行動できるように操作し、そこから得られる様々なデータを管理する職務に従事し、会社から恩給を賜ります。彼等は私の存在を理解し、私と頻繁に接触しています。が、その反面、独歩で好き勝手に振る舞い、飽きる迄はそこいらへんをウロチョロしている連中もいます。このレベルは実に多様な形質・性質を持った連中が闊歩し、私を楽しませてくれます。彼等は、組織で言う"名誉職"に近いポストを割り当てられています。ですから、恩給という賞与に余り興味を示しません。つまり、自分自身のレベルアップの為に何かを行う、という恣意活動に魅力を感じない傾向にあります。だから、私としても、彼等を放置しておいた方が楽しいわけです。そんな彼等も、やがてそれ自体に飽きが来ます。そして、又肉体を操業させる楽しみを味わいに物理界へと旅立つ者もいれば、全ての記憶や感覚を浄化し、私の元に来る者もいます。この間に知覚される者達は、形質やエネルギー質量を見ても、もはや表現の域を逸脱します。"尊大"であり"微細"、"無数の振動"であり"無数の静止"、"無限の光"であり"無限の闇"・・・貴方達の観念に沿う形で説明する事は不可能です。彼等は"純粋自己"と呼ばれ、全ての規範を超越した形で存在しています。最早全ての現象や事象、観念的な位置付けも無意味な程混沌としながら、実に整然と存在しています。そして、目下の所それら全てを統括しているのが"私"という訳です』
「それじゃあ、お前がこの宇宙や、その先にあるものを全部取りしきっているという訳か?」
『便宜上はそう言う事になります』
「何だ、その便宜上ってのは?」
『私も、実のところ、どうしてここにいるのかは分からないものでして・・・』
「それは一体どういう意味だ?」
『私にも、感知できない領域が存在している、という事です』
「それじゃあ、お前よりも上に位置する連中がいるってのか?」
『恐らくは。しかし、彼等が何の為に存在しているのか、私に何をさせようとしているのかは知りません。多分"暇"だったんでしょうね』
「おいおい、俺達は、その途方もないレベルにいる連中の暇つぶしの為に存在している、という訳か?」『それは確定された定義ではありません。もともと、この"現象外世界"は、予め決められている定義は存する意味がありません。つまり、善悪や正誤や優劣などの判断値を持たない、という事です。時間的な観念や方向性もありません。従って、貴方も、私も、他の多くの連中も、全く同じ基軸にあります。よって"貴方が劣っている"とか"私が優れている"という定義もありません』
「だが、取り敢えずお前は、たった一人でそこにいる。という事は、お前から全ては成り立っている、と考えられるが」
『それも定義されていません。と言うのも、私は"個"として存在していないからです』
「じゃあ何か?お前は"千手観音"みたいなもので・・・」
『・・・私は、振動、揺れと、それらが活動し、停止し、全方位的に広がり、収縮し、分割し、渾然一体となっているものです』
「全く理解できんな」
『それ以外は説明のしようがありません。貴方が分かりやすいような固有の形状を保っているわけではないですし、便宜上、貴方の気を引く為に、貴方と同じ格好をしていますが・・・』
「じゃあ何で、俺とこうしてサシで意思の疎通が図れるんだ?」
『貴方に拾われやすい振動だからです』
「じゃや、俺はその"振動"と会話をしている、という訳か?」
『そうです。貴方以外にも、多くの片割れと、今も意思の疎通を図っています。全方位の振動を拾い上げるチャンネルを、貴方達が自覚している事が前提となりますが・・・』
「自覚していない連中もいるのか」
『勿論います。通常は現象外世界にある"管理資本"と呼ばれている組織と、労働基準監督協会のような組織とが、貴方達自我の情報管制を行っています、多くの片割れは、彼等の管理下にあります』
「そりゃあ初耳だ。その組織は一体どんな仕事をしているんだ?」
『労働基準監督協会は、貴方が現象世界で快適に過ごし、しかも同族と共存できる特典を提示し、それを享受するのと引き替えに、現象世界での挙動・振る舞いに制限を与えるというものです。賞罰の関係を築かせ、様々な能動行為に対する抑止力を植え付けるのが目的です。先ほど申し上げた"純粋自我"の一群が、ここで稼働を続けています。彼等の意志に従う事で領域的・同種族間での営みに関して、幾らか平安がもたらされる、とされています。管理資本とは、それら労働基準監督協会の命令系統の一切を担い、現象世界のリアリティに即した形で制限を変化させ、実存世界に受け入れやすい形にして浸透させる役割を果たします。ここでは、先ほどの"高位自我"がその責務を負っています。貴方の世界の"社会資本"の"情報通信"を例に喩えると、一昔前までは主流だった"ポケベル"に変わって、"携帯電話"の利便性による需要の高まりで、市場基盤が変化し、それ(ポケベル事業)に関わる既存事業体は事業内容の大幅見直しを迫られます。"携帯電話"主導になってしまえば、幾ら魅力的なキャラクターを抱き合わせても"ポケベル"に関わる商品に固執するのでは見向きもされませんよね。市場基盤の変化に対応し、素早く事業インフラをシフトする。管理資本はそういう役目を果たしているのです。いつの時代にも"労働基準監督協会"の命令を貴方達に咀嚼しやすい、飽きっぽい貴方達の興味を引くに相応しい形にするのです』
「まあ、なんとなく飲み込めたが、具体的にそいつは俺達に何をさせようとしているんだ?」
『労働基準監督協会は「物理世界の繁栄と維持」を目的とした非営利団体です。純粋自我と、純粋自我の上位組織である"純粋自己"の共同出資で設立されました。物理世界での貴方達を会社システム体系として当てはめると、物理外世界の彼等は、物理世界にいる全種族の操業を不安なく継続させ、種族として安定した収益、つまり"種族を進んで繰り返させる為の賞罰"を貴方達に植え付けます。通常これらの賞罰は"宗教"と言う、象徴的で世襲的な思想体系を種族間に浸透させる事から始まります。しかし、物理世界では、生活環境の格差に伴う領域的思考形態に地域的な個体差が生じます。温暖な地域や年間を通じて温度変化の少ない地域よりも寒暖の激しい地域の方が個体に取り込まれる情報量は必然的に多くなります。これで分かるように、同一の思想体系を同質量与えたところで、同じ発展成果が期待できるとは限りません。従って"管理資本"が、各地域毎に思想体系を変化させ、風土特有の宗教を定着させる役目を果たすのです、場合によっては、現象世界に干渉する事もあります』
「それを操っている連中は、その、何て言うか・・・以前物理界にいた連中で、何らかの理由でそこに留まって、俺達の事を見張ってんのか?」
『そうであった者もいますし、そうでなかった者もいます。それと分かる固有の形状を保つ者もいます。その方が貴方達にとって"説得力がある"という理由からですが・・・便宜上"管理資本"とか"労働基準監督協会"という呼称を使いましたが、そのシステム自体は遙か以前から存在していました。貴方達のように、思考種族以外にも、動植物や、貴方達が"物体"と考えているものにも、同じ様なシステムが存在しています。ただ、貴方達思考種族が、性質的に"飛び抜けて飽きっぽい"ので、何かしら他とは分け隔てられた"特典"のある条件を数多く提示する必要があり、それが発展し、現在のような仕組みになったのです。歴史に名をとどめる聖人や賢人は、多かれ少なかれ自我と全体性・個と集合意識に対する繋がりに、何かしら有意義なものを見出し、自分以外の"個"に対して、それを共有する喜びを与えたいが為にあらゆる工夫を凝らした思想体系を造り上げ、それが存在するもっともらしい根拠を構築しました。それらを貴重な参照データとして、彼等賢人の知識をフィードバックし、管理資本などを強化する仕組みも考案されました。物理界での社会的実存領域がどのような変貌・進歩を遂げようと、それらのシステムは常に滞り無く運営・管理されています。そして、それらが必要な理由は極めて明快です。この物理界が、物理外世界に存在する多くの連中への"楽しみ"として知覚されているからです。その為に、操業を無闇に止めて貰いたくはないのです。肉体感覚を持ち、しかも様々な経験を通じて、総体的な楽しみを享受できる場所が確保され、それらが手落ち無く循環する・・・この理想的な形が"労働基準監督協会"の目論見・事業理念でもあるのです。その為に、平たく言えば"威嚇する"と言う事です。それと、貴方が考えている"神"のような存在ですが、それらは"管理資本"が物理界に対して干渉する際の、説得性のある備品として用意されるものの類です。方法は多様ですが"視覚化する映像"として使用される場合が多いですね。浸透した情報(思想体系)によって個体内に象徴化される「シンボル」に近似し、信仰力を集束させる道具として。それによって、貴方達の思念に"信心・畏怖心"を植え付け易くするわけです』
「なるほど、でも、何でそいつらはそんなたいそうな事をするんだ?放って置いても俺達は俺達でいいんじゃねえか?」
『ところが、実際そうも行かないんです。というのも、操業は常に新しい担い手を必要とします。でなければ社会資本は老朽化し産業基盤は崩壊、種族はいとも容易く滅亡します。それというのも、現象外世界に流出、つまり、操業を止めようとする(飽きてしまった)連中が、新規参入する連中を上回ってしまうからなんです。それは、限定された物理環境での種族比率が上がっているのが主な原因であると考えられています。そうなると、操業自体に不安を覚える個体比率が高くなってしまいます。それを防ぐ為には、操業に"絶対的意義・意志"という負荷を与える事が必要になってくる、という訳です。単純に種族比率が高くなる、という事は、必然的に一つの個体に知覚される楽しみも限定されます。それと同時に、種族同士の食い合い(自然淘汰)を避ける為に、領域毎の属性ヒエラルキーが設定されます。そのヒエラルキー毎に、知覚される楽しみの質を予め限定する訳です。そうすると、より質の高い楽しみを享受する為に、次回も物理界で操業を行う連中を確保できる、という寸法です。種族比率が高くなければ、それらの干渉は余り必要がありません。が、種族繁栄と維持の為に整備された環境は、種族の根本原理である(自然淘汰)システムから目を背ける体質を造り上げる方向へと変化します。加えて、現象外世界の思惑とは裏腹に、貴方達種族はむやみやたらと増殖を繰り返します。それを是正するのが"管理資本"なのです。彼等は、ただいたずらに種族の意義を説くだけでなく、総体的な繁栄と維持を確保する為の淘汰システムの運営も行っています。いわゆる"災害・妥当的種族間殺戮"の類です。"信仰"の対象となる思想体系を地域毎に変化させて提供する事で、各々の地域が各々信仰している対象の優位性を盾に、種族間の抗争を円滑に行い、自然淘汰を貫徹できるのです。もし、これらが正常に機能しなかったら、貴方達は恐らく"地上で最後の思考種族"となるまで殺戮を繰り返すでしょう』
「俺はそうは思わねえな」
『それは、貴方を取り巻く社会環境が整備され、様々に立脚点となる思想を持ち、その立脚基盤に相応な形で様々な法規制が施行されているからです。加えて、貴方達に提供(垂れ流)される情報も、個体の処理能力を遙かに超える質量を持っています。ですから、管理資本自体に不満を漏らしている余裕がないのです。根元的な不満を口にする前に、夥しい情報に振り回され、その欲望を相殺する事に熱中する、という"鼬ごっこ"のお陰で、多くの者達は何の躊躇いもなく操業に従事する事が出来るのです。もし仮に、貴方の思想に"自らの繁栄の為に、毎日同じ種族を最低一人は殺せ"という信仰基盤が植え付けられたと仮定します。まあ、そんな極端な言葉でないとしても"種族の苦しみを軽減させる為に、種族を肉体より解放せよ"というのでも構いません。理念としてはどれも常に正当性を持っています。繁栄と維持は何らかの犠牲を伴って保持されるからです。その犠牲が例え同種族であっても、それは避けられない事実です』
「それじゃあ聞くが、順序的に"法規制"等の社会秩序形態は、後発って事か?」
『後発と言うより、"宗教的信仰心"を基盤として成り立っている、と言えます。つまり、統制の取れた秩序を施行するのに欠かせない要素として、宗教理念は絶対的な価値観を持つのです。その価値観念を合理化させた形で流布するわけです』
「だが、実際俺は無神論者だし、そんなものを信じた事もないぞ」
『それは個人的な趣味性・志向性の問題で、属性とは切り離して嗜まれているものです。日常生活に即した形で取り入れられている"負荷イデオロギー"の一種で、実際の日常生活の基盤とは何ら関わり合いを持ちません。それが趣味の領域を出ない、という前提の上での話ですが。貴方の社会での法規には、具体的に何を信仰すべきなのか、誰を拠り所とするのかという方法論は示されていません。それらは歴史的な反復学習により"露骨"に提示・強要することの危険性が理解されている証です。様々な抑圧・蹂躙と殺戮を正当化する為の大義名分であるのなら、それは"文化的・文明的"見地からは受け入れられない方向性を持っています。より文化水準の高い社会生活とは、それらの信仰を受け入れる余地を残しながら、同時に種族間の共生と調和を保たねばなりません。その一方で、急進的に物事を遂行・達成しようとする勢力を"テロ"集団として排斥する為の指針ともなるのです。法的規制は、その為のチェック機能を併せ持っているのです。血なまぐさい殺し合いに発展する可能性のある信仰や、快楽・悦楽の追求のみに固執し、社会性を蔑ろにする信仰に対して、抑止する力が必要なわけです。貴方達種族の歴史的遺産や文化・文明を繁栄・維持させる為には、大規模な種族間淘汰は極力避けなければなりません。その為には、実存領域下の属性に対して実害となる因子を峻別する思想が必要になってきます。それらが"常識的に"と言われる形で日常に流布し、大方の貴方達はそれに依存するようになります。信号としてもたらされる情報を制限すれば、自ずと思考形態も特定のパターンが出来、管制が楽になるわけです。そうすれば、貴方達の大部分が依存するシステムに何らかの打撃を与える恐れのある"新興勢力"を手際よく排斥できるわけです。そして、この現象世界と現象外世界のバランスを保つ役割を果たすのが"労働基準監督協会"というわけです。ここまでの拡がりが、両世界の存在が感知できる最終ラインとされています』
「最終ライン?」
『純粋自我を臨界点としたラインの事です』
「つまり、・・・どういう事だ?」
『意識レベルの限界を示しています』
「さっきの話から拾い上げると、純粋自我と純粋自己の間の、一種の"溝"みたいなものか?そこから何かしら性質の異なる領域になるって事か」
『その表現は素晴らしいですね。簡単に言えば、その溝を境に、貴方達の感知できる領域と、私のいる場所とに分かれています』
「その分かれ目の違いは何なんだ?決定的に違うのか?それとも、ちょっとした違いか?」
『それが重要であると言えば重要ですし、重要でないと言えば重要ではありません』
「そんなぼやけた言い方をしないで、さっさとその二分する違いを教えてくれよ!」
『それは、"原理"の違いです』
「原理って言うと、考え方とかの違いか?」
『正確には、それらの原理によって、物理外世界と物理世界の運営が成されている、というものです。同時に、それらの原理を放棄する事で、私の領域へと至る、というものです』
「それは凄いものじゃないか!で、一体それは何なんだ?」
『対極原理です』
「対極原理?さっきの"善"とか"悪"とかの?」
『その通りです。先ず"動"と"静"、"光"と"闇"、"始まり"と"終わり"、"生"と"死"・・・そして"善"と"悪"、"神"と"悪魔"・・・"男"と"女"、"食物"と"排泄物"・・・』
「はしょるな!まあいいや、で、そいつが俺達の領分だとすると、お前の領分は何だ?」
『さっきの対極原理の存在しない領域です。言葉では説明が付きませんが、全てが集約され、全てが空っぽの、全てが満ち、全てが虚空で、もともとそれらもなく、もともとそれらがあり、想像を絶し・・・とにかく、分からないですよ。分かったところで全ては無意味で、分かったことすら忘れ、それらの作用すら存在せず、存在している実感すらなく、それらが発生する余地すらないが、それらが全体に及び、全てを構成し、全てを破壊し尽くす、貴方の概念では、およそ抽象的にしか聞こえないでしょうが、実際、全ての情報がそこにあり、同時に全てが消失している。私は特に、全てであるが、同時になにもない・・・』
「イカれてる、としかいいようがないな」
『それが正常な反応です』
「楽しいか?」
『貴方が物理的に感じる概念を私は持ちません。私は全く何も感じませんし、何も湧かない。発生するきっかけもなければ、終息する術もない』
「物悲しいな」
『それらの感情要素も何もないです。ただ、貴方達片割れが今も存在する、という観念が、何かしら実感と思えるものを運んでくるのは分かります。が、それらもすぐに消失し、私はまた・・・』
「あんたのことはよく知らないが、どうやらあんたは"俺ら待ち"状態って言う事か?」
『そうであるとも言えます。貴方達がそちらで稼働する一方で、私はそこかしこにいる、という事しか言えません』
「あんたは自分の事になると突然口が重くなるな」
『この状況を貴方達に分かりやすい形で説明する手段を持たないんですよ。私が何の為にここに存在し、どうするのか、何なのかを、貴方に分かりやすくするような』
「なあんだ、あんたは何でも知っているもんだと思っていた。あんたは"おしまい"にいる、究極の何かだと思っていた」
『"おしまい"そのものが存在していたら、最初から貴方達も私も、全ては何も起きていませんし、何も知覚されてはいませんよ。が、現実は、貴方はこれから、無数の"おしまい"を体験し、取り敢えず、私の元へやってきます。そして、私も無数の"おしまい"に遭遇し、更に何か分からないものに引き寄せられ、無限の旅に出ます』
「気の遠くなる話だな」
『それを感じないのも、それが最初から一貫して知覚されないからです。だから貴方や私は、ただ存在している、という実感のみで、この途方もない営みに身を任せているわけです』
「あんたが気の毒になってきたな」
『それが意味する事は少なくても的を得ています。だけれども、どの立場にいる存在でも、それは確実に当てはまります。例外は全くありません。何れは全てが同じ基軸へと返還するのですから』
「う〜ん。まあ、あんたの話はそれでイイや。これ以上聞いても埒があかないと思うからな。それより、さっきの溝の話だが、大体何でそんなものがあるんだ?」
『貴方達がそちらで稼働しているのは、私から"飽き"てしまったからです。私であるうちはなにもなく、それらの何も発しませんでした。私も私を自覚せず、貴方も貴方を自覚せず、全ては絵画のように、完了していました。が、その状態は永遠に続く訳ではありません。何かの弾みで、私は、貴方は、その状態が、何となく"飽き"でしまい、何か、次に飽きるまでの間を埋める手段をああでもない、こうでもない、と模索し、試行し、何が飽きないか、何が長続きするのかを、色々組み合わせ、分解し、子供の積み木のように、何かを始める事を思いつき、何かを終わらせる事を思いついたのです。その始めと終わりが、観念として二つに分割されました。そこから物理外世界と物理世界は、夥しい始めと終わりを包含しながら、徐々に知覚され始めました』
「水を差すようだが"何かの弾み"って言うのは何だ?誰かの差し金か?」
『ハッキリと言えませんが、一つ言えるのは"私以外"の"何か"と言う存在が、何かに波及し、巡り巡って私に、何らかの影響をもたらした、という事です』
「そいつはあんたと同族なのか?」
『その延長線上で、という意味では同じです。私の様々な情報を包含している、という事も分かっています。私が何でそこにいたのか、何でそこにいるのか、という事も知っています。ただ、彼等も、彼等自身が何であるか、誰であるか、何の為に存在するのかを知りません』
「おいおい、そうやって延々と続いているんじゃあないだろうな?三面鏡の合わせ鏡みたいに・・・」
『貴方は実に聡明です。まさしくその通りです。三面鏡に映った貴方は貴方自身であり、私であり、そして彼等であり・・・』
「呆れたな。それじゃあ、誰一人として、自分自身が何者であって、何でそこにいて、何の為に存在しているのか分かっていないって言う事になるじゃないか!バカらしい」
『それだから今、貴方も私も知覚されているのです。それだから貴方も私も彼等も知覚され全ては知覚されるのです。それが蓄積された情報として、夥しい始めと終わりに連結し、還元され、償却され、より総体的な始めと終わりに戻り、そしてまた始まるのです。私や貴方は、この営みをウンザリするほど繰り返しているのです。数字でカウントしようが無いほどの、とてつもない回数、いや、数える意味すらない程、それこそ、一つの環のように、仕切も、境界線もなく、全てが繋がり、切れ目無く流れ、そして点いたり消えたりしながら、永劫へと続くのです。それらが忘却の彼方に、記憶の深淵に戻され、また繰り返し、恰も初めてのように、新鮮な面持ちで、無限の同じ稼働を、同じ環の上を、永遠と流れていくのです。従って、貴方と私のこの対話も、ウンザリするほど繰り返されているのです』
「それじゃあ、俺は俺を永遠に繰り返している、って言う事か?」
『貴方がそこにいる、という事が、貴方の知覚情報として、貴方が気付いたときに、貴方でいるわけです。貴方は途方もないほど貴方です。肉体の変遷や形状の変化は最早無意味です。それに、同時に私でもある。いや、私であった、という事です。その知覚が、貴方自身を貴方として認識しているのです。ですから、今の貴方は、途方もないほど繰り返された断片としての貴方なのです。又、これからも途方もないほど貴方であり、私であるのです』
「理解不能だ。そんな事は考えたくもない。考えられない。信じられない。受け入れられない」
『その落胆は理解できます。どうにもならない、という事だけは確かです。信じる、信じないと言う観念も、何れはそれすらどうにもならないのですから』
「諦めろ、という事か?」
『そう言うことではないですよ。それに、ここでの対話は、貴方が物理界に戻ると同時に、全て消去されます。正確には、記憶の一部として、現象世界で機能する貴方自身の自覚されない場所に保管されます。貴方が思い出すことの不可能な領域に』
「じゃあ、何も憶えていないって言う事か」
『その為に、貴方達の肉体には"夢"という機能が装備されているのです。それが肉体に帰還した貴方の記憶として知覚されるのです』
「そういう訳か。それだから、こんな途方もない話を聞かされても、俺達種族は一向に減らないわけだな」『そう言う事になるかもしれないですね。もともと誰もが薄々感ずいている事なんです。ですが、実存領域でそれを口に出す事は、少なくても"常識的"ではない訳です』
「その"常識的"ってやつは、さっきの溝から端を発しているわけだ」
『その溝からの影響を多分に受けていますね。対極的な思想形態や方向性・志向性のあるものの考え方などは、全てその溝を境に発生していますからね』
「でも、何でそれが必要だと思ったんだろうな?」
『それはひとえに、貴方達思考種族の界面定着率が悪いからです。少なくても、貴方達以外の種族に関しては、そう複雑なシステム体系を構築しなくても、質量毎に作用する重力場の影響や、細胞活性の影響等、極めて基本的でシンプルな命令系統、いわゆる"自然の道理"だけで十分定着する事が可能ですが、貴方達思考種族にそれを宛うと、他の生命形態とは比べものにならない位死滅スピードが速い事が分かったのです。元々物理界とは、物理外世界の"娯楽"としての側面を持っています。様々な器官を通じて得られる感覚的情報と、物を介して得られる知覚情報、それを元手にした様々な感情と、経験の備蓄である記憶とが、物理外世界には極めて魅力的に映るのです。"無い物ねだり"という感じですね。どちらかを選択するのなら、何かを犠牲にしなければならない。対極原理は実に精巧に機能していますから、実際"娯楽"として楽しんでいることすら忘れてしまう。その忘却があり、新しい発見があり、それらに飽きるまで、それらを運営しているのです。従って、それらの感覚情報を、より摂取しやすいように、より多く読みとれるように、様々に工夫され、貴方達種族は現在のように複雑に変化しました。朝起きて、狩りをして、ものを喰らい、排泄をして、夜寝る、というプロセスからは想像もできない位に。その複雑さが、物理外世界の魅力に繋がっているのです。又、この魅力的な世界を築くのに極めて有効な働きをしたのが、"畏怖心"です。生物は火を恐れます。それと同じ様に、思考種族が畏れ、敬う為に必要な象徴的映像、若しくは効果的な物理演出によって、思考種族の内面に、この物理界を支配し、何か特別な、感情や情念を超越した絶対的な事象があるのではないか、という思索材料を提示します。それにより思考種族は、この物理界に君臨し、偉大なる力を及ぼす"何か"がいるであろうと考え始めるのです。更に、自分たち思考種族だけが、それらの"何か"に見守られ、その"何か"の意志と思念で自分たちは生かされているのではないか、と感じ始めます。やがて思考種族は、自分たちが生かされている事に、何か"完全な"意志と"絶対的な"理由がある、と確信します。そして思考種族達は、自分が生きている事に対する充足感を求め、様々な体系や趣味を構築します。それらが、生物として何れは灰になる宿命を帯びながらも、物理界に存在する間は、某かの"存在意義"を見出すに十分な根拠のある"有意義なる暇つぶし"として意味のある主体要因であるからです』
「有意義なる暇つぶしねェ・・・それが俺達種族の本来の姿なのか?」
『少なくても、物理界、物理外世界に存在する全ての形質は、その"本来の"姿を求めて流離うが為に知覚されるのです』
「それが、この物理界にいる、俺達種族の性質全てなのか?」
『全てではありません。前に触れたように、全てに"飽きてしまった"連中もいます。更にその連中は、物理的リアリティを確保しながら、これらの作為に満ちた世界全てを悉く自覚しています』
「それは、俗に言う"悟り"を開いた連中の事か?」
『貴方が観念として持っている、"悟り"の定義は、ある一方的な見方を破棄し、より総体的に物事を捉えるようになる、という事でしょうが、実際の"悟り"とは、そのような"観念的・感覚的"能力の向上及び精神の純化作用を意味するものではありません。それはあくまでも"自覚"の一形態です。実際の"悟り"とは、喩えようもない絶望から発生しています』
「それは、例えば"信じている人に裏切られた"とか"肉親を理不尽な事で失った"とかの現象から発生しているのか?」
『外的要因は余り関係ありません。外的要因により導き出された観念は、"手際の良い逃避対象を見繕う"という時間稼ぎでしかありませんので、それをきっかけとして発生するものとは本質的に違います』
「じゃあ、内面から発生する、って言う事か?」
『内面であり、数々の自覚であり、夥しく続けられている操業への不断の疑問である、と言えます』
「具体的にそいつらの内面はどんななんだ?」
『全てが存在し、全てが流れ、全てが創造され、全てが破壊される、そして、全てが当たり前である、と思えていたそのプロセス全てが、ある日を境に突然何もかも、自分自身を含めて"甚だ無意味"である事を知るのです。それは、貴方達思考種族の想像を絶した、完全なる絶望です。しかも、自分自身が思考種族として存在していながら、肉体を保有していながらです。時間として知覚されるリアリティは、それが例えどんなに高い質と広い領域を持ち、崇高な理念と高潔さを持ち合わせているように感じられても、悉く無意味であり、やがては時間すら、無意味となり、その"無意味"という概念すら無意味となる。その瞬間瞬間、感覚として知覚され、精神として作用する全てが、逃れようのない絶望の深淵から、ほんの少しでも、ほんの束の間でも目を逸らす為の悪あがきでしかない事を思い知るのです。その、喩えようもない絶望は、物理界・物理外世界に"意味のある幻"として認識され、全てが何らかの意味を求めて彷徨い、全てが理由を探して永遠の操業を繰り返す大本となっている"純粋自我"と"純粋自己"の狭間から、無数の苦悩を無限の質量をもってとめどなく放出される場所からやってきます。そこから、対極原理として事象は悉く細分化され、意味を帯び始め、意志を持ち、意義を追求し、その"無意味から無意味へ"の運動が、操業が、それ自体の本質へと悉く返還され、消え去る宿命である事を思い知り、全てに絶望します。彼等にとってその絶望は、丁度数字で喩えると"ゼロ"という概念に相当します。考える事すらまま成らず、口にする事すら出来ない。発生する余地もなく、消え去る余地もない。"死への恐怖"・"自我消失への恐怖"等の一般情念を超越し、絶望へと追いやられた実存と、それでも尚淡々と、何の感慨もなく流れていくリアリティの狭間で、それらから目を逸らし、気付けぬほど情報に押し流され、ただ欲望と、目先の利得に振り回され、欺き、卑しめ、奪い、陥れ、辱め、犯し、殺し、そして、その全てを"常識的"に享受し、高等で、高位で、優れ、気高く、特別な"神の子"としての崇高な種族の共有する道義として帰結する。そして、その帰結が、実に夥しい犠牲を生み、その犠牲が、それに払われた更に夥しい犠牲となり、目先の我欲を満たす為の捨て石としてバベルの塔の如く天上へと積み上げられ、充実し、幸せを貪り、愛を語り、繁栄と栄華に溺れる。彼等の目に、その"当たり前の現実"は、悪夢よりも更にたちの悪い狂気の世界に映ります。その狂気の世界を何の自覚もなく、当たり前に日々を浪費し、当たり前に屍を増やし、当たり前に目を背け、その上で酒池肉林を繰り広げる・・・それが、存在である事の証明として結実し、有意義なものへと昇華され、より高位な魂への変遷を遂げる為のステップとして用意されている、と、誰もが信じ、誰もが疑わず、誰もが願い、誰もがそれに依存する。それが、存在の理由として、誰もが笑顔で振るまい、優しく、思いやりを持ち、助け、救い、全てを踏みにじる。全てに唾を吐き、全てを嘲り笑う。自分を、この世界への存在証明として、輝ける存在として、より多くの犠牲を求め、より醜い欲望に彩られ、より貪欲に破壊し、満ち足りる・・・・究極の、極限の狂気です。その狂気の世界が、その物理界の、現象世界の全貌であり、その狂気を、誠に正常に運営させようと画策する、厚かましく、ふてぶてしく、しかも優しく貴方達の首を真綿で絞める連中が、管理資本であり、労働基準監督協会である・・・』
「・・・・・・・・・・あんたは最初からそれを知っていたのか?あんたはそれを承知で俺達をそんな場所に送ったのか?」
『今申し上げたのは、物理界を見渡す或る一つの見方です。ちょっと前に、私の元にやってきて、私に還元された、貴方の仲間がもたらした思念の一つです。貴方はそれをただ受け流せばいいのです。感化される必要はありません。貴方は、貴方の指針で現象世界を、それが終わるまでの間、操業を続ければいいのです。これはあくまで、自覚の問題であり、これを促すかどうかは、貴方が肉体へとエントリーする時に、予め定められている仕様によって異なるのです。それは"ハズレ"くじ付きの肉体を運悪く借りてしまった時のような感じです』
「肉体にも当たり外れなんてものがあるのか?」
『いえ、貴方に分かりやすいように言ったまでで、実際は全てが異なる仕様を持ち、異なる顕在化と終焉を迎えるようになっています。ここにあるように・・・』"本質的自己"は、何やらダイヤグラムのびっしり書かれた紙を取り出した
「そりゃ何だ?」
『これは、物理世界にエントリーする存在の運行表です』
「つまり、それに定められている通りに、俺達や、他の多くの連中も操業しているってわけか?」
『そうです。この予定表は、過去・現在・未来等の区切り無く、全てが循環として流れていく模様を記しています。これに沿って、生物は然るべき生と、然るべき死を享受します。そして、次回の借り物についても、ここに言及されているのです』
「じゃあ俺も、次回何をやるのかをそこに書いてあるんだな」
『その通りです。見ても分かりませんけどね』
「ちっ、何だよ、最初からそんなもん出して俺の気を惹くな!」
『別に悪く思わないで下さい。先ほどの"絶望"に落ちてしまった連中も、この運行表に記されている、という話の延長で持ち出したものなので・・・』
「まあいい。それで、その連中は大体どんな末路を送るんだ?」
『大抵肉体上の思考形態に変調を来し、ほぼ完璧な思考クローズ状態に陥ります。つまり"発狂する"という事です。それを免れた者は、この操業や、この無意味なシステムから完全に離脱する為に、その自覚が強烈である内に、肉体からの分離を試みます。つまり、自らの"死"をもっての決別を選ぶのです。彼等の言い表しようのない苦痛は、彼等の口から語られることはありません。従って、誰もその苦痛を知ることも、軽減させることも、取り去ることも出来ません。どんな権威も、どんなカウンセリングも、どんな技術を持ってしても、益々彼等を苦しめる事しか出来ません。彼等は知っています。自分を救うのは、自分を消失させるしか手段がない事を』
「寂しいな。それしか方法はないのか?」
『彼等を理解する者は存在しません。物理界には、彼等の苦痛を尺度として評価する基準を何一つ持たないのです。安直な言い方ですが、病名が分からないから処方箋が出せないのと一緒です。彼等の苦痛が、物理界の基準である"対極原理"を遙かに超越した次元よりもたらされている為です。所詮土台が違いすぎるので仕方ありませんが。又、同じ苦痛を持つ連中はいても、それらと交わる事すら、彼等は無意味である事を知っています。人に知って貰う事が、苦痛を共有する事が、全く無駄で、無意味で、何も生み出さない事を知っているのです。それに、彼等を嘲笑い、排斥し、属性に対応できないダメ人間としてしか対処出来ない社会通念と、それにどっぷり浸かる"常識的な"思考形態しか持ちえない連中の悪辣さを彼等はよく知っています。この物理界の対極原理が、彼等に"気違い"のレッテルを貼り、手際よく隔離・監視する手段として実に有効な働きをするのを知っているからです。従って、ここ迄一人で凌げる肉体・精神的な耐性を持ち、しかも属性と適応しながら、ただ日常を流れていく連中が、極めて稀であるが存在します。彼等は"常識的な"連中と何ら変わらない生活を営んでいますが、唯一つだけ違うのは、肉体的純粋反応以外、最早物理世界の何に対しても"興味・関心・好奇"を示さない、という点です、何かをしている、という実感すら持ちません。ましてや彼等を取り巻く無数の情報などには目もくれません。従ってその実感が、何かに結実する、という事もありません。ただ、流れて行くのみです。水が高いところから低いところへと流れていくように』
「だが、よくその自覚は"無上の喜び"とか"無常の平安"をもたらすとされているが、それはどういうわけだ。それとは観点が違うのか?」
『それは"知覚情報が対極原理からはみ出さない範疇での充足感"と位置付けられているものです。つまり、存在する事に確固とした、絶対的な意志と理由と道理が、どこかに"絶対的真理"と言う形で保管されている、という不確定的な願望が自我の思想的立脚点をなし、その為に生きている事自体を肯定する根拠として正当化出来る神経組織を個別に養う事で知覚される情緒のようなものです。これ自体間違ったことではありません。"趣味性"として推奨されるべき形態であり、生への強度としては歓迎されるものです。又、これを究極・完全域とし、これを広め、これに依存する体質を世襲させる事が、現象世界と現象外世界の安定をもたらすのです』
「薄っぺらな安定だな」
『だけど、それが機能しなければ、現象世界は悉く還元され、現象外世界の役割も無くなり、高位自我連中は途端に手持ち無沙汰になります。丁度、プロスポーツの大物ルーキーが、突発的な事故で半身不随に陥る様なものです。もっとも、それも"自覚"に於けるプロセスの一つなのですが』
「おかれている状況を把握しながら、新たに、自分自身が何者であるか、自分という存在を証明する何かを探す、目的に対する手段の変革を迫られる、という事だな」
『大分物分かりが良くなって来ましたね』
「バカにするな。あれだけ下らない話を聞かされれば誰だって感化されるさ」
『だけど、これは元々貴方が求めていたことでもあるのです。貴方が無意識に求め、何かに渇望したからこそ、私との邂逅が実現したのです』
「そして、気の遠くなるほどの回数鼻付き合わせ、俺が現象世界で何かを自覚するまで続けられる」
『自覚した後もですよ』
「何だかゾッとしない話だな。しかしそれが定めなら仕方がないか」
『それが貴方達のありようです。それたが全てのありようです』
「・・・一つ頼まれて欲しいんだが・・・」
『今までの話を聞いて物理世界に戻るのが厭になりましたね。ありがちな症状です』
「ああ。その通りだ。少なくても、それが無意味と分かった以上、そこに固執する理由も、そこにいなければいけない道理もない。今、この状態で、俺の自覚が確かなものなら、あの世界から抜け出すことは可能だろ?」
『可能です。望めば速やかにこちら側へこれます。その前に、貴方を物理界・物理外世界に引き留めている肉体・表層意識を分離しなければなりませんが』
「何か特別な儀式でもやるのか」
『いいえ。ただ、連結ソケットを外すだけです。連結ソケットを・・・』

 先に何が待ち構えているのか、という不安に苛まれ、ただ泣く事しかできない。またもやこの世界に顕在化してしまった不運と、毎度の如く繰り返されるサイクルに、半ば諦めを覚えつつ、息苦しさを解消する為に俺は泣く。今度こそは・・・ちぇっ、毎度同じ望みを掲げているが、一度として達成されたためしはない。まあいい。取り敢えず、俺は泣く・・・
 お袋がハムスターを買ってきた。折り込みチラシで見るより可愛いな。小さな小屋に閉じこめておくから暴れてしょうがないな。どおれ、何か可愛い名前を付けようか。"がっちゃん"と名を付けよう。何かテレビ番組から拝借したようでイヤだけど。そうだ。新聞紙を敷き詰めて、水と餌と・・・もう寝る時間か。お休み、がっちゃん。・・・おはよう、がっちゃん。元気いいね。そうこうする内に学校の時間だ。ああ、早く終わんないかな・・・帰りに余分にひまわりの種を買っておこう。ただいま、がっちゃんは元気だ。餌買ってきたぞう、食べな食べな。ひまわりを頬張って、ハハハ、凄い顔だねえ。こんな小さな命が、可愛いねえ・・・あれあれ、がっちゃんの様子が変だ!震えながら同じ所をぐるぐる回っている!震えてるぞ!寒いのかな?ストーブを近づけて・・・あっ、痙攣しだしたぞ!!俺は何が出来る?俺は何をしてあげれる?手の上に載せて・・・撫でてやって・・・海老反って苦しんでいる、痙攣が小刻みになって・・・キューキュー・・・・・・俺は内蔵が飛び出そうになるぐらい慟哭した。お袋は、俺にもたらされた不幸を感じ、編み物をする目の奧で涙を流した。姉は、泣き濡れている俺の手で、冷たくなったがっちゃんの首に、十字架のペンダントを宛い、そっと裏庭に二人で埋めに行った・・・姉は俺に言った「多分、小さい内にトラックに揺られて来たもんだから、内蔵がぐっちゃぐっちゃになってたんだよ」このやり場のない憤りは何にぶつけたらいいのだ!そんな解釈で済まされると思っているのか!一体俺はどうしたらいいんだ!!苦しんでいる小さな命に、俺は何と無力な、俺は何と情けない・・・
 地区予選だ。張り切ろうぜ!相手は強豪だが、俺達は組織プレーで対抗すれば、相手のエースを押さえ込める。さあ、キックオフだ。プレス掛けていけ、相手10番左!ウイングカバー行け!バックス!お前一体何やってんだ!何で外から回るんだ、それじゃあ、シュート打って下さいって言ってるようなもんじゃあないか!今更もめてもしょうがない。攻め行くぞ!ミッド、一旦下げろ・・・下げろバカ!そのまま上がるな!いわんこっちゃあない!何で俺にパスしないんだ!スペース空いただろう!俺達はチームプレーに徹するんじゃなかったのか!そんなにまでして目立ちたいのか!それで負けてたら世話ねえだろう!それとも、仲間が信用できねえのか!クソッタレ・・・
 これでおかしい所はないか?漢字とか、文法は間違ってないだろうな。よし。明日は早起きして、あの子の机の中に忍ばせて・・・でも、もし断られたらどうしよう!気まずくなるし、みんなに知れたら、いい笑いもんだ。こんな事なら、誰かに頼んで、そいつも一緒に巻き込んで、そいつからアプローチするっていう手もあったのに・・・悔やまれるな。だが、ここは一発、男を上げるチャンスだ。ようし、これで「バレンタインデー」とか、「クリスマス」とか、きっと寂しくなくなるぞ。誕生日とかも、お互いにプレゼントを交換したり出来るんだ。あの子と楽しそうに歩くんだ。そしてみんなに自慢するんだ。色んな所へ言って、色んな事をして・・・ああ、好きって言ってくれればいいな・・・
 11750,11750,11750・・・掲示板にあるかな、イヤ、見るのよそうかな、誰かに頼もうかな・・・あっ!先生。俺の番号どうでした?11750です!ありましたかねェ・・・見てないんですか・・・分かりましたよ、自分で行きゃあいいんでしょ!・・・チェッ、いやだなー、番号が・・・確認できる大きさになったな・・・ええと・・・ウオッ!!!びっくりした!ああ、なんだ木内君。丁度良かった。俺11750なんだけど、見てきてくんねえか?俺、不安でよー、てめえで見れねえんだよ。俺らしくない?俺のキャラじゃない?いや、こう言うのはダメなんだよ、ああ、たのむぁ・・・・ああ、受かってりゃあ、少なくても4年は・・・頼むよ頼むよ・・・
 保証金は1千万ですか。だけど、相手方は最低5千万要求していますよ。これじゃあ、どんなにプロジェクトに魅力があったって、勝ち目無いですよ。そんな償却率が150パーを掲げても、関係ないですよ。だって、大家にしてみれば、フリーになるポケットマネーが5千万入れば、実際チェーンやフランチャイズも関係ないでしょう。大手には叶わないですよ。だって資金力も違えば、インフラも違う。これじゃあ、あのテナントは諦めるしかないですよ。そんな、何で俺のせいなんですか!誰が見ても明らかじゃないですか!俺の企画のせいじゃないですよ!どう考えても、資金不足でしょ!それを何だって俺に押っつけるんスか、納得いかないっスよ!それが会社組織ってもんですか!それじゃ、俺は都合の良いトカゲのしっぽって事ですかァ・・・

 「・・・・・俺は子供の頃、死んだ後、地獄の閻魔様が、生きている間にやった事を一緒に見ながら、刑の重さを決定するっていう話を聞かされた。それが、何となく分かるような気がする。だが、実際は、刑よりもこっちの方が苦しいな!」
『貴方の苦痛は理解できます。それら全てを失う恐怖と、これから貴方に訪れる不安と・・・それらが悉く還元されるものです。貴方の思念が、観念が、それを苦痛に変えるのです。還元されていく記憶が、鮮明な情報として眼前に展開され、やがてはそれ自体が流れ去っていきます。分かりやすく言えば、経験や体験として借りていた"レンタルビデオ"を返却するようなものです。返却する際に、見終わったビデオを巻き戻すじゃないですか。あれと一緒です。やがてそれらが貴方から分離し、貴方を構成していたものが、一つ、又一つと剥がれ落ち、最後には、貴方は貴方であったことすら忘れ、何もなく、何も持たず、何も見えず、何も聞こえず、何の感覚もなく』
「・・・思っていたのと全然違うな」『その、思っていたのすら、もうすぐ還元されます。そうですね、全身麻酔を受けるものだと思って下さい。その位の気楽さで』
「ちっとも気楽じゃねえよ!お前はやっぱり俺をはめようとしてねえか?ずいぶんウキウキしてねえか?」
『気のせいです。貴方の記憶が還元され始めているので、必要以上に神経系が敏感になっているだけです。より生物的になったとも言えます』
「・・・ところで、後どの位で終わるんだ?」
『もう少しです。ほんの少しです。でも、もし、貴方の何処かに少しでも"ためらい"のような情念があるのなら言って下さい。全て還元されてからでは手遅れですから』
「脅すなよ!いいからやってくれ・・・いや、一つだけ聞きたいんだが、もし、俺が還元されたら、俺の・・・」

 ふう〜っ、片道2時間の通勤はこたえるな。これじゃ、家に帰って何もできんな。そろそろ潮時かもしれんな。役職者とはいえ、実際は上の軋轢と下の突き上げの板挟みだものな。賞与手当も大したメリットにならんし・・・ああ、今帰ったぞ、ただいま。お前、起きてたのか。取り敢えず、ビール。おっ、ありがとう。ああ、そうだな。明日は康宏の授業参観だったな。もう寝たのか。おつ、何だその手紙は・・・なになに、"お父さんへ・・・いつもお仕事ご苦労様。明日は体育と算数、頑張るから、見ていてね。体育は、キャッチボールができるよ。僕上手くなったよ。いつも忙しくてキャッチボール出来なかったから、明日はいっぱいやろうね"か・・・なあ、俺もそろそろ仕事を変えようと思っているんだが・・・この調子じゃあ、康宏や、お前に苦労ばかりかけてしまう。ああ、みんな頑張ってるんだもんな。だが、俺は、せめて康宏だけには父親らしい事をしてやりたいんだ。ヘタをすると、日曜ですら、逢えないんだからな・・・少年野球はどうなんだ?地区予選は勝ったのか!来週は県大会か・・・見に行きたいな・・・だが、来週は"接待"が入ってるんだ。外せないんだ。うちの得意先で、四割は押さえているんだ。それに指名だし・・・本格的に考えなきゃならんな。ああ疲れた。もう寝るよ。お前も・・・うん?どうした?えっ!そうかそうか!!!で、何ヶ月目だ?3ヶ月!そうかァ・・・今度は女の子だといいな。そうなると、これから色々と出入りが続くな・・・マイホーム資金を崩すか?なあに、そんなに急ぐこともないよ。まだまだ、これから、まだまだ、まだまだ、まだまだ・・・

 『心配することはありません。貴方はいつでも来られます。ただ、その実存領域に、貴方が消し去り難い記憶と、それより派生する数々の望みが、見捨てていけない数々の望みが、漸進するベクトルとして結実を望む情念が、貴方の深層で貴方に干渉し、引き留めるのであれば、それを阻止する力は何処にもありません』
「これだから、これだから、こんなんだから、きっと、そっちに戻っていく連中は滅多にいないんだろうな」
『そうですね。だからこそ、貴方達の肉体には"寿命"と言うものを設けてあるのです。そうする事で、否応なくこちら側への復帰を促すのです。遅かれ早かれ、ね。さあ、明日は康宏君の授業参観です』
「一つ聞いていいか?」
『・・・・・・"魂"や"霊魂"の事ですか?』
「ああ。仮に俺がここで還元されたとすると、肉体から分離した俺自身は"魂"として存在するのか?」
『そういう事になりますが、貴方が考えている、否、貴方が望んでいるように"個としての魂"という形では存在しないことになります』
「つまり、夥しい集合体としての"魂"として、俺がそいつの一部分に遷化する、という事か」
『大体そんなところです。もっとも、その頃には、貴方自身、そのような思考すら全て還元されてしまいますがね』
「それじゃあ・・・」
『貴方達が考えている"霊魂"と呼ばれている存在ですが、仮に貴方を当てはめて説明すると、貴方が肉体から"脱皮した後の皮膜が残っている"状態の事を指します。貴方がその世界で経験し、体験した様々な記憶が、還元される過程で"引き換え"として現象世界に置き去りにしてくるものの事です。それらは現象世界で一種の"エネルギー"として滞留します。貴方が還元される時には、質量の変換が行われます。貴方が現象世界から現象外世界へと流れる際に、貴方が存在していた場所にそのエネルギーを置換しておく必要があるわけです。貴方が消失した質量を補填する意味で。要は"調和"の問題です。貴方が消失した際に発生する隙間を埋めておく為の。従って、エネルギー自体の意思や思念は貴方の記憶に帰結しています。しかしながら、貴方の本質自体はそこに存在しないわけです。従って、現象世界で"霊魂"として親しまれているものは、様々な記憶の"抜け殻"であると言う訳です』
「"抜け殻"ね・・・結局、俺個人の思惑なんか入り込む余地なしか・・・ああっ、クソ!何てこった!」
『"これから、まだまだ"ですよ。大丈夫、又逢えますよ、いつでも』
「そうだな。焦ることはないか。気長にやるさ。有り難うよ。ところで、これは、お前と話したこれは、俺の記憶に残るのか?」
『残っていますが、それを物理界で読みとる手段が無いだけです。ただ、先ほど話したようにその間、貴方の表層意識は"夢"を見ていますから、物理界でこの話の影響が出るという事はありません。ただ、ほんの少し、何かがほんの少しだけ、違って見える、違って感じられるかも知れません。喩えるなら、ちょっとした"違和感"と言うものですか』
「そうか・・・安心したが、少々ガッカリだな、複雑だ。色々と感情が入り交じるな」『それが"人間"と言われる思考種族です。では、御機嫌よう、又、いつでも・・・』

 はっ!夢か・・・いや、何でもない。ただ、妙な夢を見たよ。ジェットコースターで落ちたり、空を飛んだり・・・奇妙な、奇妙な夢だった。奇妙な実感のある・・・まだ午前四時か、朝には時間があるな。授業参観はシャキッとしていかないとな・・・ちょっと、喉が渇いたから、何か飲んでくる。ああ、寝間着が肌にまとわりついて・・・地ベタの感触が・・・なんだか、俺の肉体が、妙に感覚が、手足が、何となく、一体何だろう、初めてだな・・・まあいいや、それよりももう一度寝よう。ああ、明日が待ち遠しい・・・

 "貴方のちょっかい好きには困ったもんですね"『別に。僕は何もしていないし、ただ邂逅を楽しんでいるだけだよ』"あまり流出させないで下さいよ。ただでさえ、管理資本側から定量確保の上申嘆願が出ているんですから"『それは僕の感知する問題ではない。そんな文句ばかり言っていないで、自分のやるべき事だけに執心していればいい』"分かっています。だけれども、あまり連中を「そそのかす」ような事だけはしないで下さい"『それは彼等の自覚の問題だよ。僕や君の干渉する余地はない』"やれやれ・・・では、引き上げますんで・・・それでは御機嫌よう、又来ます"『理事長に宜しく。それから、その胸に書いてある"労働基準監督協会"という名札は格好が悪いよ。第一、何だか威圧感があっていけない。僕は変えた方がいいと思うね。何なら、僕がデザインしようか?』"放っておいて下さい!"・・・・・・
 「貴方が見ている、否、貴方が感じている実存は、貴方が未経験の領域として、未来への指針として、貴方がこれから体験するものと信じている方も多いと思いますが、実は、その実存と、その経験と、その感覚は、全てが"巻き戻す途中のレンタルビデオ"である可能性を、否定する術はありますか?・・・"貴方"というレンタルビデオは、今も着実に返却の為の巻き戻しを行っているのかもしれないのです」

軟禁・・・準ドキュメンタリー番組制作に当たり、ターゲットとなる被験者のプライバシーに監視カメラを設置する事で、大胆で素直な行為を規制させる、若しくは意図的に大胆な行為を誘発させる様

ネーミング・・・同じ出所の商品をターゲット年齢層毎に振り分ける"戦略的"価値を持った「謳い文句」。同じ機能を持ち、同じ様な価格帯を設定した競合商品同士の食い合いを避ける為に用いられる。若年層には「ローマ字(ハイフン)+数字の組み合わせや(日・英語以外の)、他言語からの拝借」に比重を置き、それ以外には「"愛"、"号"の組み合わせや"動植物"の語呂合わせ」という図式で成り立っている

何故私がこんな目に遭わなければならないのか・・・それがあんたが、あんたである為に、あんたの副産物に予めセットされている"規定"だからだよ、バカ!いい加減、何でもかんでも自由になるとおもいなさんな。次回に期待する事だ

満たされる・・・外因による欲望相殺が保てている間は自分自身を回顧するゆとりがない様

人間性・・・外見に対して、そのバランスを保つ(弁解の余地を与える)意味合いで一般的に重用される言い回し。取りまとめると、"人間性がいい"→若干の慰めが混入、"人間性が悪い"→器量に対してのやっかみ半分、"人間性もいい"→相手を大いに増長させ、"人間性も悪い"→屈辱的敗北を与える。従って、使用に際しては十分な配慮が望まれる。なまじ上っ面の判断で持ち出すべき尺度ではない

なるようになる・・・希望的観測の加味された「なるようにしかならない」。事態が好転しそうな兆しが見え始める事で唐突に発症する"楽天思考"というウイルス性疾患の一種

なるようにしかならない・・・近々訪れるであろう結果が、期待されている予想と大幅に食い違うことが有る程度推測可能な範疇に至り、予め"不可抗力"の言い訳として周囲に公言しておく事で後に余計な取り繕いをする手間を省くもの。それにより導かれる結果に対し、周囲から"それじゃあ仕方がない"の一言で大方は片が付く事が立証済みの

涙・・・その解釈は様々であるが、根元的には「わき上がる感情を的確に表現する言語に乏しい・語彙力がない・言語に置換するよりも説得力があるように思わせる・比較的安易に他人の同情を誘える」という条件下で利用頻度の高い

慣れる・・・諦める努力。意味合いとしては"受け身"だが、ちょっとだけ抵抗を試みる際に使われる。「母親の味噌汁も美味かったが、お前の味噌汁も美味い・・・」

能率化・・・"生産"から"消費"に至る過程にたむろする破落戸共の利潤を還元しようという試み。ダイレクト・マーケティングによる複数問屋の駆除作業。"インターネット的な"と称される

内面・・・選択肢の豊富な(器量の良い)人物が「周囲への好感」を上げる為に重視するように見せ掛け、選択肢の少ない(器量の芳しくない)人物が「周囲への反感」を買わない為に重視するように見せ掛ける事で親しまれている"相手に求める(×レコードが記される迄は有効な)建前"。つまり、常に「軽視」される事で役所の余計な事務処理を増加させるもの

内面をえぐる・・・不治の病・疎外感・ドラッグ中毒・厭世志向という要素をブレンドし、相対して鋭さを増す感性を元手にした創作活動が訴えるもの、とされている表現能力の一つ。「生の終焉」に対する反動として顕現化する恐怖と快楽・エロスへの憧憬への決別が、消えゆく者の"断末魔の悲痛な叫び"として、受け入れ難い現実と、外界の普遍性に対する自己の切なさ・不甲斐なさと曖昧さとが結実した結果として残されるもの

望みは・・・九分九厘の事は金で片が付く立場にいる人間が、"九分九厘金では片が付かない(私怨等の)"事で稼働している人間の、「九分九厘金以外の実害を与えない限り達成される見込みのない」願望に対して、一厘の提案で"金"に譲歩しないものか、と交渉する為に遣われる事が多く、九分九厘決裂する事でお馴染みの"あまり意味のない時間稼ぎ"

ノストラダムス・・・十六世紀のフランスに存在した随時進行型実践応用人類生態学者。彼による壮大な実験は彼亡き今も続いている。現在も引き続き行われているその実験内容は「過去の時点で発生させた人間の個人・集団的潜在不安は人類という種族及び他の生態系や、包含する自然に対してどのような影響を及ぼすのか、未来という時間軸に予め特定のポイントを設定する事で発生する集束到達型潜在的不安因子という思念エネルギーがどのような形質をもって顕現化し、その影響を受けて人類及び多くの生態系はどのような反作用を為すか」というものである。つまり、人類を一つの実験対象と見なしているわけである。知っての通り、人間の潜在的不安は時として偶然を装う形で顕現化する可能性を秘めている。その効果を最大限利用しているのが「占い(そればかりではないが)」である事は周知の事実。「明日は良いことがあります」と言われてそれを何となく(大抵全面的には信じないものだが)拠り所として一日を有意義に過ごしたり「明日、都合の悪いことが起こる」と言われれば人は何となく"言われたことに対して"不安を抱え込むものである。たとえそれらを「迷信だ」と都合良く考えようと努力しても、「占い師」カテゴリーに属する連中の意見にはどことなく信憑性がある(という刷り込みが功を奏している)ので、それを完全には否定できない(事実その信憑性は否定できない。否定できないからこそ人は占いに興味を持つ。これで神社仏閣の巨木に結ばれた紙切れの説明も容易である)。普段通り日常生活を続けていく過程で、過去の時点で発生した潜在的不安は、特定日を何事もなく通り過ぎるまでは個体の片隅で息を殺して成就の瞬間を待ちわびている。発生した不安は周囲の存在に確実に影響を及ぼす。その影響が様々に波及し、その波及がやがて大きな流れとなり、その流れが存在の挙動を左右するきっかけとなる。あくまで個体を例に挙げたが、これが全人類の1%(確証はないが)でもその潜在的不安を抱えているとしたらどうだろう。特定された刷り込みによって生じたエネルギーの放出先は一体何処へ・・・

肉感的・・・対外的には敬遠され、領域内では迎合される"食感"の一つ。平たく言えば、視覚と触覚を分割した結果「周囲への見映え」と「抱き心地」の微妙なズレを補整する為の"詰め物"の事で、T.P.Oに合わせて個別に用立てる事がある種の理想とされる。同性同士では「肥満」の負い目を持ち、異性間では「豊満」という印象を抱かせる効果がある。従って"通常型肥満"とは明らかに一線を画す("デブ専"以外の一般的な事例)

呪いのメール・・・携帯電話会社の増収益企画の一つ。「配信させれば金になる」という背信行為(利用倍増)を推進させる目的。単価が安い分"ネズミ講"と勘ぐられる心配がなく、利用者にもさほど負担にならない分だけ安易に成功する事が実証済みの。因みに「呪いの手紙」は郵政省の増収益企画。全く感服する

ノーマル・・・世(市場)に出た瞬間から評価対象外にあり、基本仕様を踏襲しながらもそれより格段に異なるものが排出されてから初めて比較対照として再寸評されるもので、それ以外は「面白くないもの・退屈なもの」と解釈されているものの総称。普段はあまり意識されないが、実際は極めて重要な役回りを帯びている。「誕生日や結婚式を祝うケーキ」のスポンジ部分、と考えれば、自ずと理解もスムーズ

念・・・ブランドネームバリュー。主に「二束三文のガラス玉や紙きれや木の棒」に染み込ませる(その様なスタンスを見せておく)事で特定の消費者の財産を手際よく搾取するのに用いる

内部告発・・・正義感が強く、その上行動力があり、当然のように思慮の浅い熱血漢に、予め検疫済みの(外部持ち出し可能範囲にある)内部腐敗因子をさり気なくちらつかせ(作為である事がバレないように)、彼が「真実の〜」と英雄気取りで部外者に"餌付け"をしている隙を見計らって、本隊(腐敗中枢部位)が完全撤収できる時間を稼がせる事。部外者が食いついている"餌"に気を取られている間に、確保されている退路を使って然るべき場所へ移動し、そこで新たに別の名を騙って操業を開始する。まるで、風に乗って運ばれていくウイルスのように

呑気・・・何処にいようとも、自分の"居場所"を見つける工夫に長けた

ネクラな・・・欧米的な人間像が文化的(知的で明朗な)人生観をもたらすとされていた旧式の理念に囚われたままの浅知恵な連中が、思慮深く慎み深い、他人を尊重する貴方を一瞥して吐き捨てる、誠に無思慮な

ネアカな・・・バカな言明を尊重し、向こう見ずな挙動を重用する旨の

脳・・・多くの経験・記憶・幻想を部分的に引き出すのに使う触媒・集積回路。現在を認識する個体の記憶を一時的にセーブしておく為にこれを使用する。コンピュータシステムで言えば単なる"末端の端末"。本体(マザー)は厳然と存在し(何処か、は問題ではない)、実に様々な記録がそこに貯蔵・保管されている。そいつに端末を繋ぐかは脳の働きと資質如何によるが(これを有効に活用できれば貴方も"発明家"として名声を得ることも可能)、マザーより全ての記録を引き出す試みも過去幾度となく試されるも、結果多くの人間が「容量オーバー」でシステムダウンを余儀なくされる。それだけ個体の脳味噌レベルではどうしようもない程のものが存在しているという事である。実生活を滞りなく平穏に過ごしたければ余計な事には頭を突っ込まない方が賢明であるが、逆にシステムダウンした姿が本来の人間の姿であるという事実は忌避されている

仲間意識・・・「そんなことまでやるか」という新鮮さと「そんなことまでやる」と言う行為の共有により、客観的に窘めを行う個体数が減るシステムで運営されているもの

能なし・・・非常に穏やかで温厚、正直で真面目、奥ゆかしく利害を顧みない高潔な人物全般を指す慣用句。従って本来の人間からするとこれ程の誉め言葉は存在しないと言っていいだろう。本人達は進んで意思の疎通や主張をするわけではないので、往々にして"間抜け・アホ"という罵詈雑言も憑いて回る。それらは大抵"常識人"という人種より発せられる。(注)複数となる場合、言われ無き軋轢を受ける場合がある。少数となる場合、属性の社会より迫害を受けることになる。場合によっては超法規的措置をもって隔離され虐げられる。更に多数となる場合、"常識人"と呼ばれる連中を自分の足枷として飼い慣らさなければならない宿命を帯びるが、本人達は苦痛と思っていない。現段階では生息率の極めて少ない形態

能力・・・持ちうることの不遇さを当人に感知されなくする技能。使用に際しては多大なる犠牲を肝に銘じておかなければ個体がその能力に振り回されることとなり、屡々手に余る問題を抱えて嘲笑の的となる。「できてしまったこと」を「できること」と誤認する為に起こる。できなければ侮蔑を受ける対象となる。"最高到達点"の設定が明確な「運動競技」等でお馴染みの

日常・・・日記で割愛される部分

願い・・・名も知らぬ、何処かの誰か、若しくは何かの、何らかの犠牲によって達成されるもの。従って、厳密には「後に降りかかってくる災害」を同時にもたらすとしても、それはそれ、これはこれ

縄張り・・・小便染みの跡が残り、強烈な臭素を発している間の権限

認識・・・過去・記憶及び経験・体験の中より抽出された判断材料を現象及び事象と結びつけ、個人的見解を持つことで束の間の安堵感を得る事であるが、一般にはテレビや雑誌等より垂れ流されている情報の中から、個別の認識より幾分気の利いていると思われるものを個体の見解とすり替える"移植作業"を認識と呼ぶ。安堵感の衰退と同時に自分の認識不足を痛感することとなる(一般認識との正誤の発生)が、元々熟考しての見解ではない為、個体に与えるダメージは極めて少ない。しかしその判断材料は基準点を設けていないので多数決でマイノリティーにならなければその安堵感はほぼ確実に手中に収めることが出来る。さらに安堵感を強固にする為には、自分の認識を晒す前に他人の認識のエキスを十二分に吸い上げることだ。こうすることで貴方は他人からつまらない悩み事をうち明けられる"都合の良い"存在へと昇華できる


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